職人様 訪問コーナー 桑幡様

【職人様訪問】
咲矢弓道具では、弓道愛好家の皆様、弓道具製作者様、弓道具店様をよりスムーズにお繋ぎすることを目標に活動しています。
当コーナーでは、各職人様にスポットを当て、弓道具と、その人物を紹介させていただきます。

第8回は、初回に続きまして、薩摩弓 一燈斎の作者の桑幡さんです。

 

『真薩摩弓・新薩摩弓 誕生の話』

2022年4月某日、天気は晴れ、のどかな春の午前、一燈斎先生が弓と共に車で来訪されました。
手には、真薩摩弓と新薩摩弓の初めての作品があります。
私達の作業場に入られた一燈斎さんは、一見無造作に弓を立て掛けられ、「どうぞ」と一言。
...困りました。
尊敬する弓師さんに、どうぞと言われ、失礼があってはと思えば思うほど何もできなくなりました。
弓のどこを持つの?右手?左手?末弭を床に付けて良いの?(やっちゃいけない事リストを教えて!)
困って壁に立つ弓を眺めていると、一燈斎さんが、成りと通りを確認し、又、壁に弓を戻しました。(了解です!)
その動作をさっそく真似して、成りと通りを確認させていただきました。
どこにも無理が無く、美しいです。
その後徐々に世間話をしながら、他の作品を鑑賞したり、弓について教えていただきました。
その時の話や、体験を基に後に調査し、感じたことの一部を書いてみました。
 
 

《真薩摩弓》《新薩摩弓》共通部分です。

現一燈斎先生が、東郷先生、服部先生より続く初代一燈斎、弐代目一燈斎(先代先生)の教えを可能な限り忠実に現代に蘇らせる事を目標として作製する、本物の薩摩弓です。
真善美、飛・貫・中、貫・中・久、等々多くの弓道の最高目標の実現を道具の部分から支える弓道具と製作者の先生方、その姿は、究極の機能美だと思います。

  • 竹、木材等の素材の選定と加工、管理。
  • 芯材、ヒゴの組合せと加工、作製。
  • 接着から打ち込み、張り込み。

ここまでで弓の性能の多くを決定します。この部分は、私自身、不明な点が多く、お伝えすることが出来ません。
しかし、弓師さんによる個の違いが出る部分なので、弓道愛好家の皆様に、是非その違いを体感していただきたいと思います。

次に型の調整と村仕上げになります。
この段階になりますと、弓師さんが積み上げて来たことが、姿に現れ、私達にも理解できることが増えてきます。成りと通りの部分です。
通りに関しましては、使用される方が好みに合わせ、調整することもできますので、楽しみながら調整していただきたいと思います。
成りにつきましても、使用される方の好みに応じ、調整されることは、弓射における弓・矢の挙動や故障率、体への反応等で違いが出来ますので、楽しんでいただければと思います。
成りは、村取りと連動している事も少なくは無く、一張り、一張り、思いを込めて、打ち上げていればこそ、一張り、一張り、その弓の最高の成りは出来上がります。

私達は、そのことにワクワクし、一張り一張りに全力で向き合います。そのことも是非、お楽しみを見出して下さい。
その上で、“真薩摩弓”の特徴です。前置きが大変長くなりました、すみません。
 
 

《真薩摩弓》

①上関板と弦の間が大きく開いています。米粒を縦にした長さ以上の間隔を開ける事、との教えが
あります。
(理由:関板との距離が近いと、弦と関板が当たることがあり、離れのあと空中にある弦が素直に、
元の状態に戻り、その時するはずの弦音が、関板に触れ、邪魔され、本来の弦音が判らなくなる。
更に関板に触れることにより発する打音を弦音と勘違いする可能性も出てきてしまうからです。)

②関板に弦を当てることを前提としないので、関板を小さくしています。
(内竹から段差無く、関板へと繋がります。美しい曲線の関板となります。)

③関板を小さくしているので、村取りを握り・目付けの辺りから、上下に向かい、より多くの村取り
仕上げが施されています。
☆村取りは、ただ細く削る事ではありません。永い時間をかけて伝承された、それぞれの弓師の教え
に従い、厳密な厚み・幅・角度・形状等々を守りながら施される作業です。引き味や、矢押し・弓
返り・反動・故障率・お手入れのし易さ等に影響を与える重要な作業です。
☆多くの村取りを施すためには、弓の張り込みをしっかり行い、落ち着かせ、弓の様子を見ながら、
徐々に仕上げていくため、より多くの時間と手間、弓の能力を最大限引き出すため、完成形に近付
く程に、急上昇する緊張と精神の疲労、挑戦をエネルギーに出来る人に与えられる特別な能力かも
しれません。

④弓返りの中心軸が手の内に来るように調整されています。鋭い弓返りと矢飛び、少ない振動と安定
した矢飛び、矛盾した二つの特徴を両立させています。

⑤手に取っていただければ、すぐに解りますが、真薩摩弓は、もう一段の“小村取り”の余地を残して
います。
このことは、最高の薩摩弓に仕上げるためには、使用される方のお力が必要不可欠であることを示
しています。慣らしを含め、1年間程お使い下さい。
弓が体に慣れ、弦の張り、外し等、グラつくこと無く落ち着きが出ましたら、第2段の“小村取り”
に出すことが可能です。(別途料金が必要となります。)“小村取り”により、1年間で出た癖の調整
と、更なる“軽さと冴え”を引き出します。
“皆で作り上げる最高の一張り”をお楽しみ下さい。

⑥上記の特長により良射を弦音で伝えてくれます。打音に邪魔されない、真の弦音を体感して下さい。
(本当の弦音は、自分で気付かないが、少し離れた人に届く、と話される弓師さんもいらっしゃいま
すので、お試し下さい。)

☆真薩摩弓は、一燈斎先生が、丁寧に仕上げているため、弓張りを含め、取り扱いは容易となってい
ます。しかし、昔ながらの教えを受け継ぐゆえに、裏反りは深く、少々使い込んだくらいでは、裏
反りは落ちることはありません。
(裏反りを体験したい方は、弦を外して一晩様子を見て下さい。更に素敵な体感をしたい方は、1週
間程度、様子を見て下さい。「オォ―!」ってなると思います。
うまく張る自身が無い時は、無理せず、お求めの弓具店さんや、一燈斎さんにお任せ下さいませ。)

上記の結果、優しいのに力強い、力強いのに優しい、胴の部分から上下関板に向かうなめらかな曲線
、打起こしから、大三・引き分け・会まで、どこも無理なく、引き分けられそうな弓成り、離れの直
後から、真直ぐに矢を押し始め、弦から筈が離れるまで、加速し続けるような、ボールを投げる時の
最後のスナップ、離れの瞬間から始まる弓返りは、手の内を回転軸の中心として、最速で回転し、弦
音により起こる、心地良いわずかな振動を感じながら、残身と共に収まる。一言で表すと、“軽く冴
えた弓”ということになるのかなと思います。
そんな素敵な瞬間を感じていただきたいと思います。


(煤竹)


(焦がし竹)

 

《新薩摩弓》

咲矢弓道具の無理な要望を受け、何度も打合せを試作し、作り上げた、薩摩弓の伝統技法を余すこと
なく、駆使しながら、現代の弓道愛好家の皆様に愛される弓を提供する!を目標に作製した現代の薩
摩弓です。是非お試し下さいませ。

[特徴]
① 伝統の薩摩弓の技法による、矢飛び、弓返りの速さ、少反動、良い弦音。
☆皆様が想像する良い弦音を実現する為に、弓成りと関板の形状を見直しました。

②薩摩弓の名に恥じぬよう、“軽く冴えた弓”をとことん目指し、村取りを限界まで仕上げました。

③ 一燈斎先生の丁寧な仕上げにより、深い裏反りと、取り扱い易さを両立しています。

④ 一燈斎先生の、弓への熱い想いと、多大なるご好意により、これだけの挑戦と、手間をいただきな
がらも、お求め易い価格(\121,000(税込み))を実現できました。

⑤ 咲矢弓道具スタッフの好みで、焦がし竹を主に作製依頼しています。
(もちろん、煤竹もオーダーいただければ、作製可能です。性能に差はございません。)

 


(煤竹)


(焦がし竹)
 

最後に、一燈斎さんから皆様にお願いがあります。

「真薩摩弓・新薩摩弓をご使用になられた感想を届けていただけますと、とても嬉しく思います。
良いことばかりではなく、悪いことも、是非お届けください。
その声の一つ一つが、薩摩弓を、和弓を、より良い品として、少しでも進歩、前進して、諸先輩方
の思いと共に、未来に届ける力となります。私も、浅学非才の身でありますが、少しずつでも努力
していきたいと思います。よろしくお願いします。」

以上で第8回職人様訪問コーナーを終了します。
弓に向き合う、一燈斎先生の思いの品、真薩摩弓・新薩摩。私共、咲矢弓道具スタッフ一同、皆様に
より良い状態でお渡しできるように、努力していきます。これからもよろしくお願い致します。

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